圏論復習その4
1.4 圏同値とその判定法
前回圏同値を定義したところまで来ました。これは圏同型より弱い概念として定義したものですが、そもそもダウングレードさせた理由の一つは、圏同型の概念が強すぎて具体例がほぼ存在しないことにありました。
なので本記事では圏同値が具体的にどう現れるのかについて述べたいと思います。それに先立ち圏同値の定義を復習しておきましょう。
定義:二つの圏が圏同値であるとは、二つの関手および自然同型、が存在することをいう。
気持ちとしてはおよびに対して、かつであって、この同型が自然に保たれる(自然同型)ということでした。
では早速圏同値の例を見て行きたいのですが、上の定義を愚直に確かめるのは非常に大変です。というのも関手はともかく自然変換も自分で定義して、それが自然同型であることまでチェックしないといけないからです。
何もないところに自然変換を自力で作り出すのは相当の審美眼がないとなかなか厳しいでしょう。しかも例1つを確かめるのにそれだけの労力をかけるのは効率的とは言えません。
以上が前振りとなるのですが、実はとっても簡単な判定法がちゃんと存在します!これが今日のメインの半分です。
まずはこの判定法を述べるための用語をいくつか準備します。
定義:関手が
(1)忠実(faithful)であるとは、が単射であることをいう。すなわちおよびその間の射に対して、ならばが成り立つ。
(2)充満(full)であるとは、が全射であることをいう。すなわちに対して、任意の射はあるによってと書ける。
(3)本質的全射(essentially surjective)であるとは、任意のに対してあるが存在してが成り立つことをいう。すなわち同型による同一視のもとで対象間の全射が成り立つ。
補足:上の定義で出てきたですが、これは対象間の射のなす集合1を表す記号です。たとえば実ベクトル空間の間の射はと表します。
これを踏まえて、以下がメインの定理になります。
定理(圏同値の判定法):が圏同値を誘導するならば、は忠実充満かつ本質的全射である。もし選択公理を仮定するならばこの逆も成り立つ。すなわちが忠実充満かつ本質的全射であるならば、は圏間の圏同値を定める。
証明概略: が圏同値を定めるとすると、より本質的全射は明らか。またに対してが自然同型なことからと分かるので、忠実充満も明らかである。
が忠実充満かつ本質的全射であるとする。すると本質的全射性から任意のに対しては空ではないので、選択公理より各に対しての組を選ぶことができる。
今定めた対応は奇跡的に関手をなし、は自然同型になることが確かめられる。あとはの忠実充満性から自然同型も定めることができ、これが圏同値の定義を満たすことが確認できる。(証明終)
証明の最後は駆け足でしたが、やることは愚直なので省略しました。
ではこの定理を用いて圏同値の例を一つ見て終わることにしましょう。
例:圏を次のように定める。対象は1以上の整数で、射は行列の実行列とする。射の合成は行列の積で与えることにするとこれは圏の公理を満たす。
一方有限次ベクトル空間のなす圏をと書くことにすると、関手をとして定めることができる。
有限次ベクトル空間には次元が不変量として定まることからは本質的全射かつ、は明らか。
よってとは圏同値の関係にある。(証明終)
この例でわかるように、圏同値を構成するはずの逆向きの関手の構成には何も触れていません。片側の関手の存在しか言ってないのに圏同値という対称的な構造の成立が言い切れてしまうのが上の定理の最大の強みです。
さて、ここまでで圏同値が「大体似ているもの」という認識は持てたと思います。しかし完全には同じではない(圏同型よりも弱い)ため、じゃあ実際どこまでが似ていてどこからが違うのかが気になります。次回は圏同型でどんな性質なら保たれるのかを探っていくことにします。終わり。
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ここで集合と書きましたが、一般にが集合のサイズに収まる確証はありません。しかしやといったよく見る圏ではこれは成り立っているので、ここではそのような圏を対象とします。一般に任意のに対してが集合のサイズに収まるような圏をlocally small categoryと呼びます。small categoryという用語もあり、それは圏の中のすべての射の集まりが集合をなすものを指します。例えば群の定める圏[\mathrm{B} G]などが該当しますがここでは扱いません。↩