圏論復習その3
1.3 自然変換
前回関手を導入しました。これにより異なる圏の間の射が定義できたことになるので、圏の同型も定義できることになります:
定義(圏の同型):2つの圏およびその間の関手が存在するとき、関手が同型であるとは、逆向きの関手が存在して かつを満たすことをいう。
しかしこの定義は実は「嬉しくない」定義です、というのも現に圏同型になるような具体例がほぼ存在しないからです。むしろよくある例はのように、行って帰ってきた対象が元々の対象と同一ではないにせよ同型ではある、というパターンです。なのでそのようなケースを圏の同型として定義したほうが役に立つでしょう。そのためには自然同型の概念が必要になります。(本来の動機はこういう理由ではないです、以下の例を参照)
定義:(1)圏間に二つの関手が定まっているとする。このときこれらの間の自然変換とは
各に対して射の集まりからなり、
圏上の任意の射に対して以下の図式が可換になる:
ものをいう。
(2)自然変換が自然同型であるとは、の各成分が全て同型であるものを指す。このときと表す。
自然変換を導入する動機はまさに以下の例から来ています。寧ろ自然変換を定義するために関手や圏を定義したと言っても、歴史的にはあまり間違ってはいないらしい:
例:有限次ベクトル空間に対して、とその二重双対との間には自然なevaluation map
] (ここで)
が存在して、これはとの間の同型を与えます。さらにこれは任意のベクトル空間の射に対して下図の可換性を満たすので、は自然変換になっています。
一方の基底を何か取ったとき、その双対基底はの基底をなすのでの同型も存在しますが、これは上の図式を可換にしないので自然変換にはなりません。
線形代数において双対との同型は基底を取らないといけなくて、二重双対との同型には基底の固定が不要であることは、すなわち同型が自然かどうかでうまく定式化できるのがポイントです。
最後に自然変換を用いて圏同型の概念を少し緩めた圏同値を定義して終わりにします。
定義:二つの圏が圏同値であるとは、二つの関手および自然同型、が存在することをいう。
この定式化はまさに冒頭で述べたようなを実現していることを確認してください。